春の扉 ~この手を離すとき~

「あー、もしかして勘違いさせちゃったかな? これ僕の悪いところなんだよね」

「え? 」

「僕、担当クラスの生徒たちの名前は覚えているんだよね。だから、美桜だけが特別ってことじゃないよ」


そう言って申し訳なさそうに笑う先生に、何も言葉が出ない。

もしかしてわたしが自意識過剰とでもいいたいわけ?

それに、


『美桜だけが特別ってことじゃない』


そんな期待なんて全くしてなかったけれど、そう言われると軽く傷つくし、その傷を隠そうとしてなのか腹がたってくる。

そして、少しでもドキドキしてしまった自分が情けなくなってきた。


「ここから一人で帰ります。降ろしてください」

「だからそれは困るんだって。僕の立場を考えてくれない? 」


そんなのわたしには関係のないことだし。
もういい。赤信号でおりてやるっ


そう企んだ瞬間、ドアのロックがかけられた。


「家まで送らせてね? 」


わたしを見ながら念をおすように笑う先生の目が笑っていないのは、気のせいではなさそうだった。













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