春の扉 ~この手を離すとき~

結局、先生の都合通りにマンションの前まで送られてしまった。

道の案内以外は話す気にもならなくて、先生の話に適当にあいづちを打っただけの車内。

でもムカついているわたしの様子を咲久也先生は楽しんでいるというか、よろこんでいるというか。

子どもだと思って絶対にバカにしているに決まっている。

そんな風に思えて余計に腹がたってしまった。



「……ありがとうございました」

「どういたしまして」


お礼なんて言いたくもないけれど無言で降りるわけにもいかないし。
とりあえずそう言って頭を下げるとシートベルトを外した。
むしろ、送らせてあげて『教員の立場』を守ってあげたんだから、逆にお礼を言ってほしいぐらい。


「美桜、……待って」


先生はそう言うと、ドアノブに手をかけようとしていたわたしの腕を優しくつかんだ。

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