春の扉 ~この手を離すとき~
「あーあ、勘違いさせちゃったかな?」
「あ、あの、」
「ま、これぐらいで諦めるようじゃたいした気持ちじゃないだろうけれど、ね? 」
腕をそっと離した先生は健太郎をチラッと見たあとに、わたしに笑いかけてきた。
その笑顔にまたドキッとしてしまう。
今度は驚いたっていう理由は通りそうにない。
「送らせてくれてありがとう。じゃ、また明日ね」
今、先生は何を言おうとしてたの?
お礼を言うためだけに腕を持ったの?
でもわたしは何も聞けなくて、そして座ったままでいるわけにもいかなくて。
うなずいただけで車を降りるしかなかった。