春の扉 ~この手を離すとき~
「健太郎、美桜の話を聞かないの? 」
智香が間に入ってくれるけれど、健太郎くんの言いぐさにだんだんとイラっとしはじめてしまった。
なんで話さなきゃならないの?
とまで思ってしまう。
でも健太郎くんとわたしを交互に見て心配そうな智香。
わたしは敢えて智香に顔をむけて答えた。
「学校に参考書を忘れていたの。それで、取りに行ったら咲久也先生が『もう暗いから一人で帰るのは危ない』って送ってくれることになって」
少しだけ話をかえてみた。
本当は先生の立場のためであって強制的なんだけれど、それを言ったところで大してこの状況に影響はなさそうだし。