春の扉 ~この手を離すとき~
「あのね美桜、健太郎はこんな言い方しているけれど、すごく心配してたんだよ」
「……心配って? 」
「電話には出ないし家にもいないしで。帰り道に何かあったんじゃないかって」
智香の言葉に健太郎くんは心配していたことが恥ずかしいのか、黙ってそっぽを向いた。
そしてカバンからノートを取り出すと、ぶっきらぼうに差し出してきた。
「これ。間違えて持って帰ってたから」
まさかこのためにわざわざマンションまで来たの?
「明日のテストのだから必要だと思って」
「そうだったんだ。……ありがとう」
心配してくれてたからあんな言い方してきたの?
寒い中、こんな時間までここで待っててくれたんだ。
「健太郎くん、智香。心配かけてごめんなさい」
わたしは2人に頭を下げた。
何も気がつかずに腹を立てていた自分が恥ずかしくなる。