春の扉 ~この手を離すとき~
「もう、そんなのやめてよ美桜。間違えたのは健太郎で勝手に待っていたのも健太郎。全部こいつが悪いんだから」
「まぁ、俺も言い方悪かったと思う。ごめん」
智香につつかれて、健太郎くんは少しばつが悪そうに謝ってきた。
「よかったら家に来る? お茶ぐらいしか出せないけれど暖まっていって」
あまり家に人をあげたくはないけれど、せめて少しぐらいのお詫びはしたい。
「ありがとう。でも今日はいいよ、美桜のお母さん忙しそうだったし。さ、健太郎帰るよ」
「……え?」
『お母さん』という言葉が心に影をさした。
「美桜の母さんすっげー綺麗だな。じゃ、また明日なー」
「うん、2人とも気をつけてね」
わたしは笑顔を作りながら手を振って見送った。
そして2人の姿が見えなくなると、笑顔をたたんで大きくため息をついた。
そっか。
あの人、今日は帰ってきてるんだ。