春の扉 ~この手を離すとき~
――欲しいものがあったら教えてね。今は明日からのテストに集中しよー
明るく当たり障りなく返してみたけれど。
『そういうところだよ』
咲久也先生の言葉がまだ心に突き刺さったままらしく、偽造のわたしをつついてくる。
でも抜いてしまうと傷ができそうで……
先生に言われて、認めたくはないけれど自覚はした。
でもどうすればいいのかなんて分からないし。
――俺は何でもいいからなー
健太郎くんの返事は早い。
そしてこれ以上、話に乗っかる気持ちもない自分に驚いてしまう。
わたしは返事を返さずに、そのままスマホの電源を切った。