春の扉 ~この手を離すとき~
確かにあの瞬間はかっこいいと思った。
それに笑顔は素敵だし、メガネ姿も似合ってたし。
でも性格はつかみどころがないし、苦手なタイプの人。
だけれど
『美桜、待って』
ふいに、握られた腕が先生の感触を思いだし、胸がきゅんと締めつけられた。
やだ、どうして?
でも理由が浮かばない。
理由がないということは、きっと今のは咲久也先生のことじゃなくて、体が疲れているだけなんだよね。
でも、あのとき先生は何を言おうとしていたんだろ。
そう考えると、ますます胸が鼓動を早めていく。
だめだめ、考えてはだめ。
さっさと寝ないとっ!
そう強く自分に言い聞かせて、わたしは布団を頭までかぶった。