春の扉 ~この手を離すとき~
「あ、見て。これブサイクでかわいい」
返事に困ってしまったわたしは、ごまかすように棚に飾ってある猫の置物を手にとった。
まんまるに太った目つきの悪い黒猫が、サンタクロースの格好をしてリボンで飾られた鯛を抱えている。
でもそんなことで智香をごまかせるはずもなく。
「ねぇ、美桜? 確かにあの場では断りにくかったのは分かるけれど……」
智香が言っているのは文化祭の日のことだよね。
思い出すだけで恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。
「健太郎のことが好きじゃないのなら、はっきりと断ってもいいと思うよ? 」
「……うん」
そんなに簡単に言えることなのなら、今すぐにでも別れたい。