春の扉 ~この手を離すとき~
わたしは第2候補にあげていた“雪の露天風呂に猫が浸かっているイラスト”のカードを元の位置に戻した。
これも冬って感じで可愛かったけれど、やっぱり少し子供っぽいかな。



「で、誰に贈るの? 」

「それがね、……誰だか分からないの」


わたしは智香からカードを受け取ろうと手を差し出した。

けれど


「なにそれ? 知らない人にあげるわけ? 」


智香は眉をひそめながらカードを高らかに上げて、わたしから遠ざけた。


「大丈夫だよー」


わたしは手をのばしたけれど、心配する智香はますます高く上げてしまう。

「返してー」とつま先立ちするこの自分の姿を客観的に想像してしまい、思わず笑ってしまった。

でも智香はいぶかしげに首をかしげるばかりで。


それはそうだよね。

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