春の扉 ~この手を離すとき~
「文乃たちには話したことがあるんだけれど。おばあちゃんのお墓にね、わたし宛にお手紙を置いてくださる人がいるの」
眉間にシワをよせる智香は反対側に首を傾けなおして、わたしを見下ろしている。
この説明だけではまだ納得はしてもらえないみたい。
「なにそれ? おばあ様のお墓なのに美桜宛なの? 」
「うん。わたしのことを気にかけてくれているみたいで。もう何年にもなるんだけれど、月に1度の近況報告をしている感じになってるの」
そこでようやく智香はうなずいてくれた。
どうやら納得してくれたっぽい。
「ずっとお墓を訪れてくださるなんて。その方は美桜のことを、おばあ様と同じくらいに大切に思ってくださっているんだね」
『同じくらいに大切に』
その言葉がうれしくて、わたしはうんとうなずいた。
「でも相手が分からないってどういうことなの? 」
「……それがね、名前が書いてないの」
それは寂しいし不思議なところだけれど。
でもこれまでにいただいた手紙を思い返すと、自然と顔がほころんでしまう。