春の扉 ~この手を離すとき~
外は、低い雲が空を覆ってい圧迫感があり、そして冷たい風が耳が痛くしてくる。
あまり会話の弾まない帰り道。
いつもは1人でしゃべっている健太郎くんが、今日は少し静かなような気がして。
「美桜、どっか店にでも入る? 」
「ううん、大丈夫」
本当は冷えきった体に温かい飲み物を注いであげたいけれど、それよりも早くプレゼントを渡して帰りたい。
「時間があるなら駅前のツリー見に行かない? 」
文乃たちがまた見に行っているイルミネーション。
みんなと一緒だったら行きたいけれど、2人きりで行くと恋人同士みたいな雰囲気になりそうで、ちょっと気が引ける。
「ごめん、遅くなると怒られるから。今日は早く帰ってくるように言われているし」
そう言ってスマホを取り出すと、わざと時間を確認した。
あの人が家にいるわけないけれど、早く帰るための嘘。