春の扉 ~この手を離すとき~

「そーいや明日からばあちゃん家だっけ? 」

「うん。学校が始まる前日まで帰る予定だよ」


そう、明日からおばあちゃんの家に帰れる。
そして桜の木に届いている手紙を早く受けとりたい。

そう思うと、この沈んでいる気持ちが少しだけ軽くなってきた。


「美桜ってさ、本当にババコンなんだな」

「え? 」

「急にうれしそうな顔になったからさ。ちょっとジェラシーかも」


わたし、それまで楽しくなさそうな顔をしていた?


「……ごめん」

「いや、謝られることじゃないし」


苦笑いを浮かべる健太郎くん。
思わず謝ってしまったけれど、そうだよね。
その方が“楽しくなかった”ってことを肯定しちゃうんだよね。


『あいまいなままじゃ健太郎がかわいそうだよ』


浮かんでくる智香の言葉。
こういうことなんだね。
笑顔を作れていると思っていたのに……。


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