春の扉 ~この手を離すとき~
「健太郎くん、あの……、」
呼びかけても健太郎くんは振り向かない。
でもその耳は赤くなっていて。
そしてわたしの顔も熱くなってくる。
ドキドキはするけれど、でもこれはときめきじゃない。
恥ずかしいから、なだけ。
そして引っ張られるまま、なんの会話もなく公園へとついた。
この空模様と寒さのせいか、いつもは遊んでいるはずの子供たちの姿もなくて、わたしたち2人きりだった。
「ちょっと寒いけれど、ここでいい? 」
「うん」
わたしたちは公園が見渡せる冷えきったベンチに腰かけた。
人、1人分ぐらい空けている微妙な距離で。
ファミレスではあんなにくっついてきていた健太郎くんなのに。