春の扉 ~この手を離すとき~

繋がれたままの手が疲れてきたので、少しだけ引いてしまうと、そこでやっと健太郎くんはわたしの手を離してくれた。

外気に触れた手が、一気に冷たくなっていく。
健太郎くんの手が暖かかった、というよりも熱かったからなおさら寒さを感じるのかもしれない。

チラッと健太郎くんを見ると、耳だけでなく顔も赤くなっていた。

いつもは騒がしくてお調子者の健太郎くんが、そこまで緊張してるのには少し驚いてしまって。

そして、やっぱりもっと早くに別れるべきだったと後悔が押し寄せてくる。
もう、言わないと……。


「あのね健太郎くん、」

「あ、プレゼントだよなっ! これこれ」


意を決したわたしの言葉は、かぶせるように話はじめた健太郎くんによって中断された。

健太郎くんはカバンの中から赤いリボンで飾られた小さな包みを出してきた。


「少し早いけれど、メリークリスマス」

「……ありがとう」


開けていいのか迷ってしまう。

中を見ればきっとよろこばなくてはいけなくなる。
そうすれば別れ話を切り出しにくくなりそうで。


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