春の扉 ~この手を離すとき~
「美桜(みお)? 今日はよく飲んでる気がするけれど、体、冷えたりしていない? 」
心配そうに智香が聞いてた。
そう。智香が気づいたように体は冷えてるし、お腹は水分でたぷたぷになっている。
「大丈夫だよ。今日は全種類を制覇しちゃおうと思っているの」
ごまかすために明るく笑ってみるわたしの顔を、健太郎くんが覗き込むように話しかけてきた。
「そんなに飲んだら太るぞ? 」
「夜ごはんをセーブするから大丈夫なの」
近すぎる顔をよけながら作り笑顔で答え、そして次に言われる言葉に返す答えを用意する。
「そんな変なダイエットするよりバスケ部に入ればいいじゃんか」
「だからいやだってば。それだけは絶対に無理っ」
やっぱり予想通り。
期待を込めて聞いてくる健太郎くんに、作り笑顔のままお断りをする。何度このやり取りをしたことか……。