春の扉 ~この手を離すとき~

「どうしたの? ……ちょっと、怖いよ?」


ごまかすように笑いながら逃げるけれど、ベンチにスペースは残されていない。

これ以上は、落ちるしか……。


でも地面に落ちてもかまわないと思ってしまう。
痛くてもケガをしても、その方が健太郎くんから離れられる。

そんな考えが浮かぶほど、健太郎くんは怖いぐらいにわたしを見つめている。


だって、これって……


健太郎くんはわたしの肩をがっしりと持つと、ゆっくりと顔を近づけてきた。


「……ちょっと待って、」

「でも付き合うってこういうことだろ? 」

「やだ、……こんなのやだ」


顔を背けた瞬間、健太郎くんの息づかいが頬に触れて。

そして体中に鳥肌がたった。


「やだ、本当にやめてってば」


両腕で健太郎くんを押し返しながら、首をいやいやと振って意思を伝えるけれど……


「大丈夫だから。せっかくのクリスマスなんだし」


そう言って仕切り直すように顔を離した健太郎くんは、わたしの体を向きなおさせると、もう一度ぐっと引き寄せてきた。
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