春の扉 ~この手を離すとき~
「はい、そこまで」
突然の声に、手から感触が離れ肩の痛みが薄れた。
と、同時に後ろに強く引っ張られるような感覚。
「きゃっ」
引っ張られてるんじゃない、……落ちるっ!
健太郎くんから離れようとしていた力で、身体は勢いよくベンチから落ちていく。
一瞬の無重力の気持ち悪さ感じ、そして落下したときの痛みに備えて身体が強ばる。
落ちるまでは一瞬のはずなのに、まるでスローモーションがかかったようにゆっくりで。
『寒い日の地面でケガしたらすっごく痛いんだろうな』
なんて考えがよぎるほどゆっくりだった。
「おっと! 」
その声と同時にわたしの身体は地面に落ちる前に何かに受け止められた。
「大丈夫? 」
その声に恐る恐る目をあけると、咲久也先生の顔が目の前にあった。
「………え? 」
わたしはしっかりと先生の腕の中に抱き抱えられていた。