春の扉 ~この手を離すとき~

何が起きたのかは分からないけれど、とりあえず先生が聞いてきた『大丈夫? 』にわたしは反射的に『うん』とうなずいた。


でもどうして先生がここにいるの?

そして『大丈夫? 』の意味を考えてなおしてみた。


ケガをしなかったこと?
それとも健太郎くんから離れられたこと?


そのどっちもなのかもしれない。

わたしがもう一度うなずくと、先生はわたしを安心させるように、目を細めてゆっくりとうなずき返してくれた。

そして、ふーっと息を吐いて眉にシワを寄せると顔の向きをかえた。

今、微笑んでいた表情とは全然違う怪訝な顔。
バスケをしていたときとは違って怖いぐらいの真剣な顔。

突き刺すような視線のその先には、顔を真っ赤にしながら先生を睨みつけている健太郎くんが見える。


今されてしまったことを思い出して、わたしは思わず顔を背けてしまった。
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