春の扉 ~この手を離すとき~
先生は恐怖と緊張でガチガチに固まってしまっているわたしの手を丁寧にほどくと、体を少し引き寄せて頭をよしよしとなでてくれた。
先生の暖かさを感じると、すーっと緊張が溶けていく。
そして体の中に空気が流れ込んできて息を吹き返すことができた。
「……驚いたね。でももう大丈夫」
先生の言葉と頭を撫でてくれるあたたかい手に、涙がポロポロと頬を伝いこぼれはじめた。
「もう大丈夫。大丈夫……」
「……はい」
何度も何度もうなずいてしまう。
先生が、健太郎くんには見えないように唇がつけられた手の甲をしっかりと拭いてくれると、生暖かかった感触が和らいでいった。
このとき、健太郎くんがどんな顔をしているのかなんて確かめる余裕もなくて。
「立てる? 送っていくよ」
そう言いながら先生は着ていたコートをわたしにかけてくれた。
あたたかくて安心するけれど……。
わたしは先生の言葉に頭をブンブンと横に振った。