春の扉 ~この手を離すとき~
こんなところを咲久也先生に見られたくはなかったと思ったから。
早くここから消えてしまいたい。
「……1人で帰れます」
そう言ってわたしはコートを外すと先生に返した。
「わかった。気をつけてね」
「はい」
辺りはもうかなり暗くなっている。
なのにこの間みたいに無理に送ろうとしない先生。
わたしを安心させるように微笑んでいる先生は、わたしの気持ちを察してくれてるの?
「美桜、……」
申し訳なさそうな、わたしにすがってくるような、なんとも言えない健太郎くんの掠れた声に、体がビクッと震えて思わず先生の影にかくれた。
今は何も話をしたくないし、聞きたくもない。
顔を見るのもいやだった。
「気をつけて帰るんだよ」
健太郎くんとわたしの空気を繋げないように、先生はわたし肩を持つとクルっと体の向きを変えてくれて、公園の出口に向けた。
わたしは黙ってうなずくと、逃げるように足早に公園をあとにした。