春の扉 ~この手を離すとき~

こんなところを咲久也先生に見られたくはなかったと思ったから。


早くここから消えてしまいたい。


「……1人で帰れます」


そう言ってわたしはコートを外すと先生に返した。


「わかった。気をつけてね」

「はい」


辺りはもうかなり暗くなっている。
なのにこの間みたいに無理に送ろうとしない先生。

わたしを安心させるように微笑んでいる先生は、わたしの気持ちを察してくれてるの?


「美桜、……」


申し訳なさそうな、わたしにすがってくるような、なんとも言えない健太郎くんの掠れた声に、体がビクッと震えて思わず先生の影にかくれた。


今は何も話をしたくないし、聞きたくもない。
顔を見るのもいやだった。


「気をつけて帰るんだよ」


健太郎くんとわたしの空気を繋げないように、先生はわたし肩を持つとクルっと体の向きを変えてくれて、公園の出口に向けた。

わたしは黙ってうなずくと、逃げるように足早に公園をあとにした。







< 99 / 349 >

この作品をシェア

pagetop