スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
俊くんは不意に上を向いて、腕で額の汗を拭った後、改めてタオルでごしごしした。
たぶん、今のシーン、美香子先生だったらキュンとしてたんだろう。
わたしには、そこに漂ってるはずの色気というものが、やっぱりわからない。
「ごめんね」
「何でなぎちゃんが謝るの?」
「何でだろ? 俊くんが苦しそうだから?」
「そのうち吹っ切れる。臆病な自分を、これからちゃんと変えていく」
「俊くんって臆病なの?」
「ああ。おれ、なぎちゃんのことがずっと好きだったけど、なぎちゃんと両想いになるのは怖かった。関係とか環境とか変わるのが怖かったんだ。
幼なじみに片想いしてるっていう、その居場所は安心できて、ずっとそのままならいいと思ってた」
かわいいなあ、と感じてしまった。
中学生みたい。
恋をしてるけど、居心地のいい関係を壊せずに、踏み出すことができないなんて。
かわいいと感じた胸は、次に罪悪感を覚えた。
中学生の臆病さのまま、俊くんの恋心が成長を止めたのは、鈍感なわたしのせいだ。
もっと早く想いを打ち明けてくれたらよかったのに、と都合のいいことを考えてしまう。
だけど、それができるんだったら、とっくに言ってくれてただろう。
そしたら、わたしは今ごろ俊くんの奥さんだったかもしれない。
だって、決して嫌いなんかじゃないから。