スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
第6章 あたしの先生をかえしなさい!
「すみません。わたし、何も考えてなくて」
大学のある町の駅に降り立ったのは、ずいぶん久しぶりだ。
この駅の周辺には、偶然なのか都市計画なのか、小さな大学や専門学校が集まっている。
わたしが通っていたのは、そのうちの1つである女子大の教育学部だった。
「変わってないな、このへん。エンパヰヤも」
帝国【エンパイア】の名を冠する喫茶店は、まもなく創業50周年を迎えるそうで、格調高い老舗として有名だ。
コーヒーも紅茶も、1杯900円もする。
エンパヰヤが加納の行きつけの店だった。
待ち合わせにもよく使っていた。
きみひとりでは入れない店だよね、と何度も繰り返されたせいで、わたしは1度として、ひとりでエンパヰヤを訪れたことがない。
通りに面した大窓から、背筋を伸ばして腕時計に目を落とす加納を見付けた。
あのころ特に気に入って座っていた、ルノアールの少女の模写が飾られた壁際の席。
壁を背にするのはもちろんわたしだったから、絵そのものじゃなく額縁の模様だけ、よく覚えている。
昨日わたしが加納から受け取ったメールも留守電メッセージも、内容は同じ、ひとつきりだった。
「会って話をしたい。明日、午後5時30分にエンパヰヤで待っている。来てくれると信じている」