スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
わたしが注文したコーヒー、ベネズエラが運ばれてきた。
ミルクと砂糖を入れると、加納が目を細めた。
「相変わらず、両方入れないと飲めないの?」
「……はい」
「きみは変わってないんだね。安心したよ」
ぐにゃりと、わたしの中の何かが歪んだ。
たぶん、時間感覚みたいなものが。
そう、わたしは変わっていない。
大学時代、この人と付き合っていたころのまま、ジャズピアノは高尚で難解だからわからないし、おすすめされたベネズエラにミルクと砂糖を入れないと飲めないし、加納の矯正を受けないと社会人としてきちんとできない。
ああ、いけない、今日はヒールの低い通勤靴で来てしまった。
加納は気付いただろうか。
髪は中途半端なボブスタイルで、ろくにセットもしてこなかった。
メイクだって同じ。
爪は磨く暇がなくて、甘皮の処理すらしないまま。
やってるんだ、わたし。
大学のころより全然ダメになってるじゃないか。
変わってないなんて言ってもらったけど、違う。
あのころ目指してたような大人の淑女から、むしろ遠ざかってる。
暗澹たる気分のわたしは、せめて姿勢だけは美しく保とうと、腹筋と背筋、太ももに力を入れた。
爪の処理の甘い手をテーブルの下に隠そうとする。
その手が、つかまった。
加納がテーブルに身を乗り出して、わたしの両手をしっかりとつかんでいた。