スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
「聞いてくれ。そして、ぼくを助けてくれ。ぼくは今、一生を左右する大きな決定をすべきときを迎えている。
仕事どころではなくて、この1週間、休暇を取った。悩みごとのために仕事を休むなど、ぼくらしくもないと思うだろうが、聞いてほしい」
色の薄い光彩は冷たく湿って、わたしをとらえて離さない。
わたしには、はい聞きます、と、うなずくことしかできない。
実は、と切り出された一言目に、愕然とした。
「ぼくは先月、婚約した」
「婚約……?」
元カノの手を握りながら、苦悩の顔で告げる言葉ではないはずだ。
加納はかぶりを振った。
「婚約した、というのは正しくない。婚約させられた、だ。
ぼくの母がとある大手企業の社長令嬢だという話は、もちろん覚えているだろう? ぼくの婚約者となった女性は、祖父の会社と深い縁のある企業の社長のご令嬢なんだ」
「お相手のかたも、社長令嬢?」
「早い話が政略結婚だ。婚約者の父君の会社は、ぼくの祖父の会社に比べて圧倒的に歴史が浅いが、勢いはある。
2社が競合することなく手と手を取り合えば互いに発展できるだろうと、その友好の証として縁組が成立してしまった」
「それは……おめでたい話、なのでは……?」