スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
わたしの手を握る力が強くなった。
痛みに、思わず顔をしかめる。加納は力を緩めない。
「めでたいものか。ぼくの意思はどうなる?
半年ほど前から結婚の話が具体的になって、相手の女性と顔合わせをしていた。一緒に食事をしたり出掛けたりして、それなりに親しくなった。
いや、彼女はすでにぼくに惚れている。でも、ぼくは……」
加納は言葉を切って、目を伏せて息をついた。
わたしには、自分の視界に映る光景が映画のように思えてならない。
握られた両手の痛みさえ、どこか遠い。
「婚約者さんを好きになれないんですか?」
空っぽな声が聞こえる。
加納が主役の映画の助演女優が、画面に映らない場所でセリフを言った。
自分の声だと気付くまでに、呼吸ひとつぶんの間が空く。
加納のまなざしが再びわたしを見つめた。
「時間が問題を解決することに期待していた。そのうち自然と彼女を好きになるかもしれない、と。
だが、無理だ。彼女はぼくに媚びを売るばかりで、向上心がない。この1ヶ月、一緒に暮らしてみて、ぼくは限界を悟った」
「もう、一緒に暮らしてる……?」
「親同士が勝手に決めたことだ。ぼくが異を唱えなければ、同居と入籍は同じタイミングでおこなわれるはずだった。
しかし、ぼくはまだ感情が追い付かない。挙式も、早くて半年後だ。何もかもがちぐはぐで、噛み合っていない状況なんだ」