スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
「妊娠していると言った。だから慌てて同居に踏み切ったのに、妊娠は勘違いだったと、言葉をひっくり返された。ストレスで周期がおかしくなっていただけだと」
加納は決め付けてるけど、それは本当に嘘だったの?
彼女は本気で妊娠を信じて、喜んでいたんじゃないの?
あなたもその言葉を信じたってことは、心当たりがあったんでしょう?
今、彼女、どれだけ落胆してる?
あなたがいるべき場所、ここじゃないよ?
言いたいことは喉元にわだかまるばかりで、声になって出ていってくれない。
それどころか、あれ?
わたし、今、呼吸してるっけ?
頭が痛い。
少しずつ視界が白んでくる。
音の遠近感が狂っている。
加納の声も、予測不能なジャズピアノのメロディも、こめかみでぐるぐる回っている。
「今なら、ぼくはきみを選ぶことができる」
待って。
わたしを選んで、わたしをどうするつもりなの?
「これまで出会った人の中で、きみがいちばん大切だったと気付いたんだ」
違う、その比較の仕方は間違ってる。
あなたにはもう婚約者がいる。
「今度こそ、きみを愛し抜くと誓うから」
わたしじゃない。
あなたが誓うべき相手は。
「…………、…………」
息が苦しいと、今になってようやく、わたしの脳が認めた。
視界も音も真っ白になって、でも、まだ意識はここにあって。
不意に。
ハッキリと。
「なぎさせんせぇぇっ!」
真っ白なわたしを、あどけない声が貫いた。