スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
と、ドラムの前に座った人が、こっちに向かって軽く片手を挙げて、シュルッとスティックを回してみせた。
貴公子系ナイスミドルだ。
シャープな顔立ちにニヒルな笑み、少し癖のある茶色の髪。
年を重ねたぶん、色気や魅力が熟成してるタイプ。
ヤバい、何だこの人、カッコいい。
しかも、わたしのほう見た!
と思ったんだけど、違った。
「ジョン、頑張れー!」
らみちゃんが無邪気に手を振った。
ジョンと呼ばれた貴公子が、凛々しげなマスクに甘い笑みを浮かべる。
らみちゃん用の笑顔だったけど、貴公子ファンはけっこういるらしくて、そこここで女性の嘆息があがった。
バンドメンバー全員が定位置に就いて、それぞれの楽器を手に取った。
開演の挨拶はなかった。
指揮者も立たなかった。
ただ一言、トロンボーン奏者の1人がマイクを取って、曲名を告げた。
英語だった。
聞き取れなかったし、そもそもわたしはジャズの曲名なんて知らない。
いきなり始まった。
「O-ne, tw-o, o-ne, tw-o, thre-e, 」
揺らいだリズムのカウントを、マイクを置いたトロンボーン奏者が口ずさんだ。
そして打ち上げられた1音目から、圧倒的だった。
風圧、を感じた。
サックスの5人、トロンボーンの4人、トランペットの4人。
層になって重なった管楽器の音が、ごく近い場所にあるステージから一斉に、わたしの真正面めがけてぶつかってきた。
音が、風圧になってかぶさってきた。