スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
わたしは、寄せて返す波のような前奏から、その大好きな主題を語り起こす。
目を閉じていても弾けるほど、わたしの体に馴染んだ曲。
小さな変化を付けて繰り返された主題はやがて、イ短調の切ない展開へと移行する。
高音から低音へと、なだらかに沈んでいった先には、歓喜を呼び起こすような大波が、低音から高音へとせり上がっていく。
そして再び、あの優しく美しい主題。
右手と左手がそれぞれ1オクターヴ、音域を広げて奏でられるから、シンプルなメロディに華やかさと力強さが加わる。
決して難易度の高い譜面ではないし、音の密度も高くないのに、ダイナミックでドラマティックな響きだ。
いつの間にか夢中になっていたわたしは、弾き終わるまで、頼利さんがスタジオに入っていたことに気付かなかった。
拍手の音に驚かされる。
頼利さんは笑顔だった。
「いいじゃねぇか。おれもその曲、好きだぜ。あんたの名前を初めて聞いたとき、その曲が頭に浮かんだ」
「母の好きな曲で、わたしの名前、この『渚のアデリーヌ』から取ったらしいんです」
「ドンピシャかよ。じゃあ、せっかくだし、ベースは『渚のアデリーヌ』でいくか。コード進行もシンプルだしな」