スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―


立ち上がったトランペット奏者の、驚異的なロングトーン。

聴衆はもちろんバンドメンバーまでどよめいて、それがアドリブなんだとわかる。

彼が吸い込む息の音が聞こえた。

凄まじく速くて正確なパッセージが続く。


アドリブソロはリレーされて、1人のサックス奏者が立ち上がる。


おじいちゃん、と呼べそうな年齢。

でも、全身から噴き上がる気迫は熱い。

真っ赤な顔。

雄叫びのようなハイトーン。

頬だけじゃなく、あごの下の皮膚まで膨らんでる。

長年の演奏で、そんなふうに進化してるんだ。


緊張を、彼は連れてくる。

予測できないメロディラインが、意識をそらす隙を与えてくれない。

息を継ぐことさえ、ままならない。


刻まれ続けるドラムとコントラバスのグルーヴが、力強くて心地よい。

わざと濁したピアノの和音が、緊張感の中にあっては、ひどく温かくて柔らかい。


ビリビリしていたサックスソロが不意に、調和しながら着地して、再び全員でのハーモニーが呼び戻される。

ソロ演奏を讃える拍手の中で、たった今までサックスを吹いていた彼が、悠々とサックスを置いてフルートを手に取った。


え、フルート?


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