スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
「個別で何人か教えてるが、あんたからはレッスン料は取らない。おれは、あんたの顔を見られるんなら、それでいいから」
「でも、教えてもらうんなら、そのぶんは……」
「単なるおれの趣味。らみとあんただけは、商売っ気抜きでやりたい」
ドラムセットの前を立った頼利さんが、まっすぐ、わたしのほうへ歩いてきた。
電子ピアノの椅子に、ドラムのほうを向いて横向きに座っていたわたしは、どうすればいいかわからなくて、動けない。
頼利さんは、わたしの正面で、ひざまずくように体を沈めて、片膝を抱いて座った。
「ちょっとした身の上話なんだけどさ、聞いてくれねぇか? らみの家庭環境調査も兼ねて、おれがプロのジャズミュージシャンになりそこねたって話を」
後悔のような自嘲のようなものを含んだ笑みが、頼利さんの頬に柔らかく浮かんでいた。
わたしは、ただ、黙ってうなずいた。