スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
「わたしの恋人役、演じてもらえませんか?」
「おれがガキのころは、うちはそこそこ金持ちだった。親父が運送会社の社長だったからな。家族経営プラスアルファって程度の規模だけど。
姉貴が会社を継ぐって宣言してたから、おれは好き放題やってた」
頼利さんの姉貴というのは、らみちゃんのおかあさんだ。
4歳年上の彼女は、頼利さんの高校卒業と同じタイミングで大学を出て、ご実家である運送会社に就職した。
らみちゃんのおとうさんは、彼女が就職からほどなくして迎えた婿養子だそうだ。
高校を卒業した頼利さんは単身、アメリカに渡った。
ご両親の影響で子どものころからジャズが大好きだったし、中学時代からは習っていたドラムはそこそこの腕前だった。
アメリカでプロのジャズドラマーになるのが目標だった。
「金持ちのボンボンらしく音楽学校に通えりゃよかったんだが、親父がそれに断固反対しやがってな。親父は形から入るタイプだから」
「形から入るんなら、音楽学校なんじゃないですか?」
「クラシック音楽のプロを目指してたんなら、格式高い学校に押し込まれてただろうな。でも、おれはジャズだ。
あんたも、大雑把なアメリカの歴史くらい、知ってるだろ? イギリスの植民地として開拓が始まった。その労働力は、アフリカの黒人奴隷だった」