スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
譜面台の上の、ボロボロの分厚い楽譜。
隣のメンバーに笑いかけるトランペット奏者。
トロンボーン奏者の額にキラキラする汗。
コントラバス奏者がうつむいた瞬間、頬に落ちたまつげの影。
くしゃりと柔らかな音をたてたピアノの、それを弾く指の優しい形。
ドラムの貴公子が、いつの間にかスティックからブラシに持ち替えている。
シャラシャラとささやくドラムの音は、何だかくすぐったい。
足で鳴らすバスドラムは、蹴飛ばすんじゃなくワルツのステップを踏んでるみたいに、まろやかで曲線的で余裕たっぷりだ。
全部がカッコよくて楽しい。
泣きたくなるほど圧倒的で、身を任せたら夢見心地で、わたし音楽が好きだなって、ものすごく素直な心が簡単に引っ張り出されて、わたしはどうしようもなく無防備になる。
曲の切れ目にテーブルを見たら、オレンジジュースが運ばれてきていた。
それを口にするより先に次の曲が始まって、わたしはまた意識が吹っ飛んだ。
次に気付いたときには、グラスの中の氷が全部、溶けてしまっていた。