スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
「わたしにはできないと尻込みしてたら、頼利さんは背中を押してくれました。
ジャズだけじゃありません。子どもたちとの接し方を認めてくれた。わたし自身が抱える問題にも、一緒に向き合ってくれる。信頼できる人なんです」
言葉にすればするほど、自分の想いが見えてくる。
教師と保護者。
この関係は、いけない。
でも、惹かれる心が止められない。
加納のまわりだけ酸素が薄いみたいに、加納は浅い息であえいでいる。
苦悩の表情に歪んだ顔は、やっぱりあまりにも端正だから非現実的だ。
「ぼくは……ぼくの地位と財産があれば、きみを、幸せにできる。働くことで悩んだり、忙しさにかまけて美容が損なわれたりする生活から、きみを、解放できる。だから……」
「ほしくありません」
「な、何?」
「ほしくないんです。地位の高い旦那さんもあり余るような財産も、いりません。
教師という仕事は、わたしにとって天職です。悩んでも、忙しくても、絶対に辞めたくない。
あなたにわたしの幸せをどうこう言われたくないんです」
「き、きみは、しかし、ぼくと付き合っている間、充実していただろう? ぼくがいなければできなかった体験も、幾度も……楽しんだだろう?
ぼくは、恋人として、きみに尽くせるだけのことをすべてやってきだろう?」