スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
スウィングのノリは、実際にスタジオに入って、頼利さんと音を合わせながら体得していく。
ジャズのスタンダードナンバーは、クラシックピアノにおけるバイエルみたいなキッチリしたやつがないらしく、使う楽譜はそのときの頼利さんの気分次第。
「スパルタなんですけど」
「あ? こんくらい普通だろ」
「どのくらいが普通ですって?」
「WJOのレパートリーが300曲以上あるって話は、したことあったか? ライヴのとき、譜面台を見ただろ?」
「ああ、すっごく分厚かったですね」
「300以上の中からどの曲をやるかは、ライヴ開始直前に、紙に書いて全員に渡される」
「れ、練習は!?」
「するもんかよ。ぶっつけ本番。それで演奏が乱れるようなレベルじゃねぇし、ジャズミュージシャンは同じことを繰り返すのが嫌いな生き物だからな」
「スリルありすぎません?」
「だからいいんだろ」
でもね、ジャズ初心者のわたしにまで、そのスリルを味わわせてくれるのは、ちょっとどうなんだろうって思うけどね。
わたしはあれ以来、週1回か2回、頼利さんの楽器店のスタジオでジャズピアノを教わっている。
レッスン料を巡ってはちょっとバトルがあったけど、わたしがスタジオの掃除をすることで一件落着。