スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
わたしにおしぼりとお冷を渡してくれながら、俊くんこと直江俊文【なおえ・としふみ】くんが、パッチリした二重まぶたの目を、クルッと大きく見張っている。
「異次元って何? なぎちゃん、どこに行ってきたの?」
俊くんは幼なじみだ。
3つ年下だけど、昔からかなりのしっかり者で、小学校時代なんて、たびたびわたしの忘れ物を届けに来てくれていた。
サッカー少年だった爽やかくんがそのまま大人になった感じで、なかなかカッコいいと思う。
わたしは俊くんからおしぼりを受け取って、質問に答えた。
「ライヴハウスに行ってきた。ジャズのオーケストラって、すっごい華やかなんだね。ああいうの、初めて聴いたよ。衝撃的だった」
「なぎちゃんって、音楽に詳しいのに、そんなに衝撃受けたんだ?」
「詳しくないよ。わたしがやってたのはクラシックばっかりで、しかもピアノ中心だったから。洋楽は俊くんのほうがずっと詳しいでしょ」
「いや、おれも店で流してるような若干古いロックばっかり聴くから、ジャズはあんまり知らない。でも、家庭訪問でライヴハウスって、どういうこと?」
「意味不明だよね。わたしもいまだに状況をつかめてないんだけどね」
ため息。
俊くんと美香子先生が顔を見合わせて、同じタイミングで肩をすくめる。