スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
バイトさんが俊くんから洗い物を受け取って、厨房に引っ込んでいく。
俊くんは、カウンターで何かの仕込みを始めながら、たびたびわたしたちにも視線を向ける。
「ある女性のお客さんグループからのリクエストで、さっぱり系のデザートを出してほしいって言われてて。ここで女子会をしてくれるらしい。
それで、女性に喜んでもらえそうなメニューを親父と考えてるところなんだけど、難しいね」
「わたしと美香子先生が相談に乗るよ。味見してあげるから」
「最初からそのつもり。2人が好きな料理をもとに、コースを作ろうと思ってるし」
飛梅が人気な理由は、気配りが行き届いてるところにあるんだろうな。
改装する前はおじさん客がほとんどだったけど、最近では若い人もけっこう入ってるし、俊くん狙いとおぼしき女性もいたりする。
給食のせいで早食い習慣のついてるわたしは、ペロッとデザートを平らげた。
美香子先生は、ちょびちょび味わいながら食べていて、その仕草のいちいちがかわいい。
「ああ、幸せ」
眼鏡の奥の目をとろけそうに細めた美香子先生に、俊くんが小さく声をたてて笑った。
「大げさだよ、美香子先生」
「本心よ? 食事が楽しくて、食べ物も飲み物もおいしい。そのことが本当に幸せなの」
美香子先生は、たびたびそういうことを言う。
そして、言うたびごとにきれいになってくように見える。