スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
頼利さんは顔をしかめて、サラサラの茶髪を掻き上げた。
「昨日、らみの前であんたが変な注文するせいで、おれが、らみの質問攻めにあったんだぞ」
「ライリ、先生に『あんた』って言うのダメ。先生は先生なの。ねえねえ、先生、カクテルってカッコいいね! 混ぜたら違う味になっておいしくなるって、すごいね!」
なるほど、「カクテルとは何ぞや?」から説明したわけか。
子ども相手に、それはなかなか難儀だっただろうな。
らみちゃんが理解してるところを見ると、頼利さんって人、実は緻密で論理的な話し方ができるはずだ。
そういえば、わたしが初めてカクテルを作ったのは、らみちゃんくらいのころだ。
父に教えてもらった。
父は学生時代のカクテル大好きが高じて飲料メーカーに就職して、担当する新商品を連続で爆発的にヒットさせて、凄まじい大出世を遂げた人。
頭の出来が違う人だ。
らみちゃんには、おとうさんがいないらしい。
事情は知らない。
担任するクラスの中には毎年、母子家庭や父子家庭の子どもが必ずいる。
珍しいことではないけれど、だからといって教師が無神経でいてはいけない。
保護者を招く授業参観や学校行事はもちろん、国語の物語単元で家族が登場する場面でも、気を付けるようにしている。