スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
笑って騒ぐこと数分間。
ライヴハウスのオーナーさんとおぼしきおじいちゃんが出てきて、そろそろお開きだと告げた。
らみちゃんの就寝時刻のこともあるし、素直に解散する流れになる。
狭い階段を抜けて、地上に出る。
夜の更けた平日の飲み屋街は、いっそ静かと言ってよかった。
「ライリ、先生、駐車場まで競走!」
らみちゃんが頼利さんの手を離して、パッと駆け出した。
わたしは慌てて後を追い掛ける。
「待って、らみちゃん! 暗いから、ひとりで行っちゃ危ないよ!」
肩に食い込む通勤バッグが重い。
らみちゃんは20メートルくらい向こうの自動販売機の前で体ごと振り返って、にーっと笑った。
唐突に、肩に振動を感じた。
バッグの中に入れているスマホが、地上に出て電波を拾って、新着通知のバイブを作動している。
いや、振動が続いているから、電話の着信かもしれない。
不意に、ザワッと寒気がした。
なぜ、と説明できない。
ただ、わたしは何かを直感して、狭い車道の向こう側を見た。
「……加納【かのう】、さん……?」
操作中とおぼしきスマホを手にした男が、まっすぐに、わたしを見ていた。
スーツ姿は見慣れない。
だって、わたしが彼と会っていたのは、お互いが大学生のころだったから。
彼がスマホの操作を止めた。
バッグの中で震え続けていたわたしのスマホが、ピタリと静かになった。
電話をかけてきていたのは、彼だったらしい。
「久しぶりだね」
彼が、笑った。