スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
「どうした? 久々の再会に驚いて、声も出ない? まあ、そうだろうね。
驚かせたくて、きみがデュークから出てくるのを待っていた。このライヴハウスを知っているとは、きみもセンスがよくなったね」
加納はジャズを弾ける。
付き合っていたころ、加納はオシャレなバーでピアノの小難しいパッセージを披露して、きみはジャズに挑戦してみたことすらないんだろうと、わたしに憐れみの目を向けた。
だって、チャレンジできるはずもなかった。
難解で複雑なジャズは、わたしにはどうせ弾けないと、わたしはいつの間にか思い込んでいたから。
加納にどんなふうに遠回しに言われたんだっけ?
そうだ、確か「小学生にはジャズは理解できないから、きみはバイエル程度の譜面に慣れておくほうがいい」って。
それがわたしには、少しねじれて聞こえた。
「小学生レベルの頭脳とピアノ習熟度のきみには、ジャズは理解できないよ」って。
加納がわたしの正面に立ち止まった。
その手がわたしの肩に触れる。
わたしの肩から通勤バッグが滑り落ちた。
ドサッと、教材が重たい音をたてる。