スウィングしなけりゃときめかない!―教師なワタシと身勝手ホゴシャ―
「一緒においで。この近辺にはビジネスホテルしかないが、比較的設備のいい部屋を押さえてある。話したいことがあるんだ。来てくれるだろう?」
ああ、この場面は覚えてる。
まるでお芝居の中の王子さまみたいにわたしの手を取って、この時点で、すでにいくつも先の段取りまで完璧で。
大学1年生だったわたしは、うっとりして、そのまま加納に連れ去られた。
加納の手のひらが生ぬるい。
わたしの手は冷たい。
変だ。
さっきまでジャズの興奮の中にいて、胸の熱のせいで全身がほてるくらいだったのに。
体が寒い。
息がうまくできてない。
加納の視線に留め付けられて、わたしは蛇ににらまれた蛙になってる。
バッグ、拾いたい。
今日は帰りますって言いたい。
やだ、体がやっぱり動かない。
助けて……!
と。
「わぁぁぁああっ!」
叫び声がした。
元気のかたまりみたいな小さな体が、勢いよく飛んできて、わたしの手を加納からひったくった。
「何だ、きみは?」
「4の2ルール、お願いごとがあるときは一方的にしてはいけません! 両方が意見を出し合って、ケンカしないようにしましょう!」
らみちゃんがまっすぐに加納を見上げて言い放った。
4の2ルールを言い切った後は、わうわうと、意味をなさない何かを口ずさみ続けている。
興奮すると、らみちゃんはうまくしゃべれなくなるから。