二度目は誠実に
ぶつかった男性は謝るどころか止まりもしないで、そのまま走って行ってしまった。

急いでいたにしても一言くらいないものか。文句の1つでも言ってやりたいところだが、それよりも支えてくれた拓人に礼を言わなくてはいけない。

一応ケガしなくて済んだのは、拓人のおかげだ。支えがなかったら、転んだかもしれないし、転ばなくても足首を捻るくらいはしたかもしれない。

礼を言いたい相手ではないけど、これはこれ、それはそれだ。


「ありがとうございます」


「うん、危なかったね。転ばなくて、よかった」


沙弓は落としそうになったバッグの持ち手をしっかりと持ち直して、拓人を見た。


「ん? どうしたー?」


「何でいつもそんなふうに語尾を伸ばしたりして、軽い感じに喋るんですか?」


沙弓が礼を言ったときの返事は普通の話し方で、顔も真剣だった。慌てて支えた拓人は、つい真面目に応じてしまっていた。

だから、なんでわざわざ軽く見られるように話すのかが謎になる。


「なんでだろうねー。俺も分かんないや」


「はい?」
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