二度目は誠実に
「なんでって、こっちこそなんで……」


「まあ、いいや。ほら、降りて」


拓人はまだ沙弓の腕を掴んでいたので、止まった10階で沙弓をまた引っ張って下ろす。10階は人事部がある階となっている。

またもや突然の行動に沙弓は無理矢理動かされる形となった。そのまま引っ張られて、エレベーターから近いところにある小会議室の前まで来る。


「ちょっとなんですか?」


「ほら、ここに入って」


「えっ? もう昼休み終わりますってば! 戻らないと……」


「だーいじょうぶだから。時間はかかんないから」


拓人はドアを開けて、沙弓を押し込む。小会議室は30分後に人事部が使用する予定となっているので、テーブルには資料が並べられていた。

早ければ15分前には参加メンバーが来る。だから、時間をかけている暇はない。

沙弓もテーブルの上の資料を見て、会議の時間が迫っていることを悟った。誰かに拓人と二人で見られて、変な誤解をされては困る。

噂のネタにはなりたくない。


「話があるならすぐ言ってください」


とりあえずすぐここから出たい。
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