二度目は誠実に

「じゃ、キスしていい？」


「はい？ ふ、ふざけないでください。ちょっと触らないでください」


沙弓は両肩を掴もうとする拓人から逃れるようと後ろに下がった。近付こうとする拓人に手が震える。拓人はそんな沙弓を見て、寂しそうに笑う。


「嘘だよ。なにもしない。怖がらせるつもりなんてないしね。ただ谷があまりにも俺を避けるからちょっと意地悪したくなっただけ。ごめんね、行っていいよ。午後も頑張ってね」


拓人は沙弓から離れて、ドアを開けて出るように促した。沙弓の目が本気で怯えていたから、これ以上嫌われたくないし、また「大嫌い」とも言われたくない。

沙弓は開かれたドアに歩き、ドアを持つ拓人を見た。せつなそうな表情の拓人に自分の態度はひどいものだったのかもしれないと足を止める。

だからといって、突然こんなところに連れてこられたことを許しはしない。

ただ少し拓人が気の毒に思えたから……


「大石さん」


「ん？ なあに？」


「怖いとは思っていませんから。あの……本当にごちそうさまでした！」