二度目は誠実に
送別会の主役の一人である拓人は、飲み過ぎて足元がおぼつかなかった。意識はあるのだが、正常ではない。


「はいはーい! 今日の俺は谷っちに貰われるんだよねー」


上機嫌な拓人はお開きになった途端、沙弓を捕まえるべく抱きしめた。沙弓はギョ! として、拓人を離そうとするが離れない。

『谷っち』なんて1度も誰からも呼ばれたことがない。もちろん拓人からもだ。


「あらあら、大変ねー。まあ、谷さんなら大丈夫よね。気を付けて帰ってね」


「谷さん、大石くんをよろしく頼むよ」


この送別会には二次会がないので、みんな散り散りに帰っていく。中には飲み足りないと個人的にまだ飲む者もいるが、大半はこのまま帰る方向となっていた。

拓人も沙弓もこのまま帰ると思われている。それと、二人に関しては間違いは起こらないだろうとも思われている。


「みんな無責任過ぎる……」


「ん? どうしたー? 場所は谷っちに任せるよ。どこでも付いていくからねー」


「どこでもと言われても……」


ホテルに連れ込む勇気の出なかった沙弓は自分の部屋に連れていくという選択しか出来なかった。
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