二度目は誠実に
課長の指示なら仕方がない。沙弓は小さくため息をついて拓人の隣に座った。


「谷も元気だった? 全然姿さえも見ないからどうしてるかなーって、思ってたよ」


「そうですか……普通に元気でした」


拓人は沙弓を全然見ていなくても、沙弓は何度か拓人の姿を目にしていた。だけど、自分の姿に気付かれないようにと見かけるたびに隠れていた。

つまり、拓人に遭遇しないよう避けていたということである。


「そういえば、先週でしたっけ? ほら、谷さんと一緒にいたときに大石さんが前から歩いてきたから、俺が声を掛けて……あれ? と振り向いたら谷さんがいつの間にか消えていたんですよね」


「ああ、そんなことを言ってたよな。さっきまでそこにいたとか。何を言っているんだ? と思ったけど、あれは谷のことだったんだ。ふうん、そうか」


拓人は沙弓が逃げた意図を悟り、うんうんと何度も頷いた。沙弓はそんな拓人を横目でチラッと見て、アイスコーヒーにミルクを入れた。
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