東と西の恋
第壱章 桜
日常
日本からはるか西に存在する、人間の乙女の血を吸う化物がいる。
化物の血は今となっては薄れ力も弱くなっている。
だけども今もそれらは生きており、生きるため乙女の血を少し分けてもらって生きている。
そんな一族の、昔に比べれば権力はあまりないが王族の王子様がいる。
彼は今宵も乙女の血を求む。
ただその王子とやらは風変わりしているそうな。
ひざ下まである長いしめ縄のような三つ編み。
顔があまり分からないように大きめのマスク。
そして、赤で縁取ってあるメガネ。
きっちりと膝したスカート。
どこをどうとっても完全なる少し風邪気味の髪長な真面目少女である。
が、いくつか手に持っている縦長の紙にはミミズのような文字が書かれており、紡がれる言葉はまるで他の人に聞かれたら変人と即答できそうなことばかり。
そして、彼女が対峙しているモノは かなり異質だった。
それはあまりにもこの世の生物とは言いがたく酷く禍々しい。
「引く気はないの?」
彼女もが異形に喋りかけるがそれも虚しく異形によってかき消された。
「うああァァァァァ!憎い!憎い憎い憎い憎い!俺の邪魔をするなアァァァァァァァ
ァァァ」
「何を言っても無駄みたいね」
そう言って手にあった紙を異形に向かって飛ばす。
「我が名は術者月華 今ここに悪しき者の歩を止めん」
すると紙が意思を持ったように異形に張り付き襲いかかってこようとしていた体が止まり凍ってしまったかのように動かない。
そして、少女の周りに白く光る矢が現れ
「破魔の矢よ 不浄のものを浄化せよ !」
矢は異形に刺さり声ひとつ上げる前に淡く光り、消えた。
その後には一輪のこの世には咲いていない華があった。
「浄化完了」
少女は華を拾い 胸ポケットにさす。
その花はとても美しく真っ白で決して媚びない良い香りを出していた。
「今日もひと仕事完了っと」
そうして邪魔にならないように隅っこに置いてあった荷物を取り今回の依頼者の元へ向かう。
依頼者は中年のとても気が弱そうな人だ。
「あ、ありがとうございました おかげで助かりましたお礼は」
と言い聞けたところで
「もう貰いましたので」
と言って足早に立ち去る。
その場にはとても良い華の香りがした。