二度目の初恋
げっ!こんな時に会社からかよ。

俺は慌てて会場から離れた場所で電話に出た。


案の定仕事上のトラブルで

俺が戻ってきたときにはもう円はいなかった。

そんなに時間は経っていない。俺は控え室へと向かった

中に入ると

既に私服に着替えた円が少し落ち着きなく座っていた。

名前を呼ぶと円はさっと立ち上がり振り返る。

円の顔はほんのりと赤くなっている。

「綺麗だ」

綺麗にメイクを施された円の顔はとても綺麗で

一瞬時が止まったような感覚になる。

私服に着替えてしまったのはちょっぴり残念だが

もしドレスを着てたら俺はどんな顔をしていたのだろう。

「あっつ!なんか凄く別人でびっくりしたって言うか・・・
 人って変われるんだなって」

円はさらに顔を赤らめながら早口で言う。

そんな円に対して俺は

「そうだね。メイク一つで人は変われる。でも・・・俺はどんなに綺麗に

メイクを施した顔より-」と言ったところでハッとした。

俺は笑った君の笑顔が好きだと言おうとしていた。

確かにしおりは積極的で大胆にと言ったがこれじゃ告白みたいなもんだ。

さすがに俺の家政婦になって数日でこれはダメだ。

最後まで言わなかったことに安堵するが

円からしたら話の途中で切られるのは気になるところ。

俺は言おうとしていたことを忘れてしまったと咄嗟に言い訳した。


その後仕事が片付いたら電話すると言って円には店内で待ってもらう事にした。

俺はと言うと・・・

ハンガーに掛けられた円が着用していたドレスを手に取り

ドレスの買い取りをする為塩谷に手続きを頼んだ。
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