二度目の初恋
しおりさんは控え室のドア越しから見える時任さんを見つると小さく溜息を着いた。


「聡を選んでいたらきっと幸せで・・・楽な人生を歩めたと思う。だけど私はそうは
なりたくなかった。聡を自分の逃げ道にしたくなかったの。でもその代償は大きくてね
さっきみたいに普通に話せる様になったのはここ最近よ」

しおりさんは頬杖をつくと苦笑いをした。


時任さんと私が同じ立ち位置にいたことに驚いたものの

伏せられたフォトフレームの理由が失恋によるもので

時任さんがまだ過去の恋を引きづっている事に私はなぜか小さなショックを感じた。

二人の間にどんなことがあったのか知りたい気持ちはあったけど

しおりさんはそれ以上のことを話さなかった。


しばらくすると控え室のドアが開き、時任さんに呼ばれた。

私が席を立つと、しおりさんも立ち上あがった。

「円さん。今は辛いだろうけど、きっと私たちが選んだ選択は間違いじゃないって
思える日が自然とやってくると思うの。自然とね・・・だからお互い頑張ろう」

そんな日が来るなんて今の私にはとても想像出来ないけど、気を遣って言ってくれた

しおりさんに私はありがとうございます。と言って一礼をし、控え室を出た。



「随分しおりと楽しそうに話をしてたけど、何をはなしてたの?」

時任さんが興味しんしんに聞いてきたがまさか

しおりさんから時任さんを振った理由を聞いただなんて本人目の前にして言えるわけない。

でも何も言わないわけにもいかず「いろいろ」とかなり曖昧な返事をした。

もちろん、そんな言葉で時任さんが納得するわけがないのだけど

下手な事を言うとしおりさんとの会話をぼろっと言ってしまいそうで

私は何を質問されても「いろいろ」で貫き通した。
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