二度目の初恋
会場の両サイドにパーテーションがあり、そこの裏で自分の出番が来るまで待つのだけれど

隙間から会場の様子を見てみると

想像以上にお客さんがいて一気に心拍数が上がる。

こんな大勢の人の前で最新メイクを施してもらうのはわかっているけど

それ以前にすっぴんさらして良いのか?私は!

と改めて自分の選択を恨んだ。だが時既に遅し

もう逃げられない。ここは腹をくくるしかないの?



しかも最前列には私の両親、そして亮太夫婦もいる。

何でこんな真ん前にいるのよ!

どうせ、お節介な母が「亮太くんこっちこっち」な~んて言って

無理矢理自分の隣に座らせたに違いない。

「どうした?」

時任さんも私と同じように隙間から覗きこんだ。

「うちの両親がきてるんですよ~。しかもその隣には亮太達が・・・」

「あ~いるね~」

時任さんは他人事の様に凄く楽しそうに声を弾ませた。

「いるね~じゃないですよ。逃げたいです」

「大丈夫だって。ここまで来たら綺麗になった円を見てもらって向こうを
驚かせてやれ」

「驚かせてやれって簡単に言うけど・・・」

あまりにも軽々しくいう時任さんにムカついて睨んだ。

すると時任さんが私の前に立ったかと思うと上半身を倒しながら私の耳元まで近づいた。

「目の前にいる人、全てがじゃがいもや玉ねぎ、いや石でもなんでもいい物だと思え。
そして頭の中は関係ない事をずっと考えていれば良い。今食べたい物や行きたいところ
なんでもいいから・・・わかった?」

耳元で囁くから気持ちが耳に集中して心臓がバクバクしてきた。

それでもなんとか頷くと時任さんに背中を押されるようにステージに立った。


それからまもなく私は人生で初めて、人前ですっぴんをさらした後

有名なメイクアップアーティストの手によって

全くの別人に変身した。

ステージに立ってる間の私の頭の中は今食べたい物でも行きたいところでもなく

耳元で囁く甘い声だった。

お陰で目の前のギャラリーを見る余裕などなかった。

だから両親の視線も亮太の存在も気にすることなく無事に終わったこと

感謝するべきなのかな?

あ~もうよくわかんないよ。
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